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猿まね
 2006.07.25 Tue
2006年7月17日付け朝日新聞掲載の藤原新也さんによる「エルビスの亡霊」と題した「時流自論」なるコーナーの記事です。わが国の現在の異常さを記録として留めておきます。
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「あれ、気恥ずかしくて、どこか穴があったら入りたいという気持ちでしたよね」
小泉首相が米テネシー州メンフィスのプレスリ-邸で、プレスリーの”猿まね”をしたテレビ報道を見た知り合いの主婦の感想である。今もアメリカの半植民地として位置づけられている一国の長が、アメリカの有名芸能人の猿まねをして、それを評価する国はどこにもないばかりか、軽蔑されるのは誰の目にも明らかだからだ。
当の礼賛を受けた米保守派メディア、ワシントン・ポストでさえ、その光景に以下のように言及している。
If wise men say only fools rush in,then on this day, at least, President Bush heeded the wise men.(もし賢者が、愚か者のみがことを急ぐと言うなら、この日は少なくともブッシュ大統領は賢者の言うことに耳を傾けていた)。これはプレスリーのヒット曲「Can't Help Falling In Love」(愛さずにはいられない)の冒頭部分を巧みに引用したコメントだが、早い話、「小泉はすぐ興奮する愚か者だったが、ブッシュは冷静だった」と一刀両断に切り捨てているわけだ。
すり寄られたアメリカでさえこうなのだ。日本と犬猿の仲である中国、北朝鮮、かつてルックイースト(日本を見習え)の標語を掲げたアジア各国、アメリカ嫌いの南米諸国や欧州の人々に、この光景がどのように映ったかは想像に難くない。(中略)
あの小泉首相の姿を見て、私は助役の孫(不良のまねをするのはなぜか特権階級の子だった)の中学生がのれんの飾りを学生服につけ、どこやらから調達してきた四角いメガネをかけて得意げにプレスリー・ナンバーを歌う姿を思い出した。
こういった極端なアメリカ化現象は、実際に進駐軍が入ってきた土地固有のものである。小泉首相の育ったあの横須賀もまったく同じ様相を呈していたであろうことは想像に難くない。同じ港町に育った私には、小泉首相のあの情景の”出自”が手にとるようにわかるのだ。
ただあの時と今回のそれとの違いは、助役の孫がプレスリーの猿まねをして見えを切っていたその周りには、ただの貧相なガキたちの羨望の眼差しがあっただけだが、プレスリー邸での小泉首相の周りにはブッシュ夫妻以下世界各国のメディアが一歩引いた眼差しで見守っていた、ということである。
裸の王様ほど怖いものはないとつくづく思い知らされた一件ではあった。
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  c:1  t:0   [みなみ]
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